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Skills Tech導入で企業が得た成果:グローバル&日本企業の事例を紹介

前回の記事で、人材マネジメントの分野で現在注目を集めつつあるSkills Tech(スキルズテック)の基本的な概念や、注目されている背景、そしてSkills Techが企業にもたらす可能性について解説しました。

現在のビジネス環境では、技術の進化や市場の変化に迅速に対応するため、企業が従業員のスキルを効果的に管理・育成する必要性がますます高まっています。Skills Techは、従業員のスキルを見える化し、それを評価・育成するためのテクノロジーであり、企業の競争力を強化する重要なツールとなっています。

本記事では、実際に企業がSkills Techをどのように活用しているのか、海外企業と日本企業におけるSkills Techの活用事例を紹介したいと思います。


海外企業の事例

1. Unilever(ユニリーバ)

ユニリーバは、Skills Techを活用して従業員のスキルを管理・育成し、スキルを中心とした新しい人材活用の仕組みを進めています。具体的には、職務経験や学歴に依存せず、スキルに基づいて多様な人材を活かすことを目指しています。

【主な取り組みと成果】

  • 「Skills-First」アプローチの導入
    ユニリーバは、従業員のスキルを重視したキャリア形成や昇進を進める「Skills-First」という方法を採用しています。従業員は自分のスキルを登録し、上司や専門家がそれを確認・承認するプロセスです。この仕組みにより、従業員は自分に合った役割を見つけやすくなり、社内での異動や成長の機会が広がっています。

  • スキルに基づく採用と育成
    ユニリーバでは、米国のEd-tech企業「Degreed」が提供するスキル分類に基づき600以上のスキルを定義し、従業員のスキルを可視化することで、会社が求めるスキルと候補者の潜在的なスキルを比較し、適切な候補者を採用することに活かしています。さらに、このDegreedを全社員の学習のハブとして活用し、必要なスキルを習得できる学習機会を提供しています。

出典:WEF [2023] “Putting Skills First: A Framework for Action”


2. Siemens(シーメンス)

シーメンスは、産業、インフラ、モビリティ、医療分野に特化したグローバルなテクノロジー企業であり、30万人以上の従業員を抱えています。同社は、テクノロジーの進化に対応するため、従業員が常に新しいスキルを身につけ、必要な能力を開発することを重視しています。

【主な取り組みと成果】

  • 「My Skills」の導入
    シーメンスは、従業員のスキル開発をサポートする独自ツール「My Skills」を導入しています。このツールは、同じく独自で持つ学習プラットフォーム「My Learning World」と連携しており、13万以上のオンライン学習コンテンツを提供しています。従業員は自己評価を行い、足りないスキルを把握し、その結果に基づいて学習を進めることができます。

  • スキル管理と役割の明確化
    「My Skills」を活用し、シーメンス全体で800以上の役割と1,800以上のスキルを管理しています。従業員は、次に進むべき役割に必要なスキルを継続的に習得できるようキャリアサポートを受けることが可能となっています。

  • AIを使ったスキル分析と最適化
    シーメンスは、AIを活用してスキルデータを分析し、どのスキルや役割が今後必要になるかを特定しています。これにより、企業としての効率的なスキル開発が可能になっています。

出典:WEF [2023] “Putting Skills First: A Framework for Action”


3. Tata Consultancy Services(タタ・コンサルタンシー・サービシズ:TCS)

Tata Consultancy Services(TCS)は、インドを本拠地とするグローバルなITサービス企業であり、Skills Techを活用して高度なスキルを持つ人材の採用と育成に注力しています。TCSは学歴や経歴にとらわれず、スキルを重視した採用とキャリア開発を進めています。

【主な取り組みと成果】

  • 「Tファクター」という考え方の導入
    TCSは、特定の分野で深い専門性を持ちながら、他の関連分野でも幅広いスキルを持つ人材を「Tファクター」の高い人材として評価しています。TCSでは、こうした多様なスキルを持つ人材を積極的に採用しています。

  • 3段階のスキルベースの採用プロセス
    TCSでは、選考試験をデジタルに運営管理するプラットフォームである「TCS iON」を用いて、学歴や経歴ではなく、実際のスキルを重視した3段階の入社選考を行っています。最初は認知能力・心理特性・ITキャリアへの適性を試験によって判断し、続く2段階目では配属先を決定するための実務試験を行い、最終段階で面接による選考を実施しています。

  • 「Talent Cloud」の活用
    TCSは、60万人以上の従業員のスキルデータを「Talent Cloud」というシステムに集約し、プロジェクトマネジャーは、Talent Cloudで求めるスキルを検索して、条件に合致する人材を探します。また従業員はプロジェクトを通じてスキルを磨き、次のキャリアステップに活かすことができます。

出典:リクルートワークス研究所 北米のスキル重視採用-デジタル人材は学歴不問-


4. HSBC(香港上海銀行)

HSBCは、従業員のスキルを可視化し、社内での異動やプロジェクトへの参加を促進するために、AIを活用したタレントマーケットプレイス※を提供する企業、GloatのAIプラットフォームを導入しています。このプラットフォームは、従業員が自分のスキルを最大限に活かせる機会を提供し、組織全体のスキル活用を最適化しています。

【主な取り組みと成果】

  • スキルのデータベース化
    HSBCは、Gloatを使って従業員のスキルをデータベース化しています。そのスキルをプロジェクトとマッチングすることで、社内のスキルミスマッチが解消され、適材適所の配置が可能になっています。

  • キャリア機会の可視化
    従業員が自分のスキルセットに基づき、社内の新しい役割やプロジェクトを探せる仕組みを整備し、キャリアパスの透明性が向上しました。これにより、従業員のモチベーションが向上しています。

  • 社内モビリティの向上
    HSBCのタレントマーケットプレイスには14万人以上の従業員が参加しており、部門を超えたプロジェクトに従事する機会が45%増加しました。このプラットフォームにより、従業員は異なる部署や役割での経験を積み、スキルを活用しやすい環境が整えられています。

※タレントマーケットプレイス(Talent Marketplace)とは、従業員のスキルやキャリア目標をデジタルで可視化し、社内外での異動やプロジェクトの機会とマッチングさせるプラットフォームのことを指します。AIなどのテクノロジーを活用し、従業員が自分のスキルや興味に合った仕事やプロジェクトに参加できるように支援します。

出典:How HSBC powered a future-fit skills agenda


日本企業の事例

1. ベネッセコーポレーション

ベネッセコーポレーションでは、従業員のリスキリング(再教育)を推進するために、Skills Techを活用しています。同社は、特にデジタル人材の育成を目的に、従業員のスキルを詳細に分類・可視化しています。

【主な取り組みと成果】

  • DX人材のスキル分類と可視化
    DXに関連する人材を7つの職種に分類し、それをさらに13区分に細分化して、社員のスキルレベルを3段階に分けて評価。全社員約3000人のスキルを可視化しています。

  • リスキリングの推進
    全社員を対象にデジタル基礎研修を実施し、スキルレベルに応じたカスタマイズされた研修を提供。外部ツールを使って研修効果を測定し、社員の成長をサポートしています。

  • ラーニングカルチャーの醸成
    Udemyを活用して、社員が自主的に学ぶ文化を促進。キャリア後半の社員も新たなスキルを習得し、デジタル人材として活躍しています。

出典:社員をデジタル人材にリスキリングする極意


2. 日立製作所

日立製作所は、社員のリスキリングを推進するためにSkills Techを導入しています。同社は、事業環境の変化に迅速に対応できる人材の育成を重視しており、学習機会の提供と社員のリスキリング意欲を高める工夫をしています。

【主な取り組みと成果】

  • 学習体験プラットフォーム(LXP)の導入
    社員が現在の業務やスキルレベルに応じてリスキリングできるよう、学習体験プラットフォーム(LXP)を導入しています。このプラットフォームは、社員ごとの学習ニーズに合わせたコンテンツをAIが推奨する仕組みを備えており、個々の成長をサポートしています。

  • 全社員を対象としたリスキリングの実施
    上記により、約2万以上の研修プログラムが提供されており、AIが受講すべき研修をリコメンドすることで、社員一人ひとりの学習意欲を引き出し、スキルの底上げを図っています。これにより、全社的な人材力の強化を目指しています。

出典:リスキリング、掛け声の先に成長は描けるか


おわりに

本記事で紹介した各企業の事例は、それぞれ地域も業界も異なりますが、いずれにおいてもスキルを軸にした人材マネジメントが有効であり、活用されていることを示しています。

ただし、日本企業におけるSkills Techの導入と活用は、海外企業に比べまだその範囲が限られている印象があり、リスキリングの枠を超えた全社的なスキル管理による人材配置や採用・評価といった領域までの活用が進んでいる、とは必ずしも言えないのが現状です。

今後、多くの日本企業もSkills Techを活用することで、従業員の能力を最大限に引き出し、グローバル市場での競争力を強化していくことが期待されます。